ドクターコラム
「薬を飲んでいるから大丈夫」ではありません ~糖尿病治療における栄養指導の重要性~
「糖尿病の薬を飲んでいるから、食事はそれほど気にしなくても大丈夫ですよね?」
診察室で、患者さんからこのような質問をいただくことがあります。
しかし、糖尿病専門クリニックとしてお伝えしたいのは、
糖尿病治療において最も重要な土台は、実は毎日の大切な食事であるということです。
実際、外来の糖尿病患者さんで、HbA1cを良い数値で保っている方は、
多くの方が、大切な食事に興味を持っていらっしゃいます。
皆様ご存知の通り、
近年、糖尿病治療薬は大きく進歩しました。
血糖値を下げるだけでなく、体重減少や心血管疾患の予防効果が期待できる薬も登場し、
多くの患者さんがその恩恵を受けています。
しかし、
どれほど優れた素晴らしい薬があっても、
食生活の改善なしに十分な治療効果を得ることは難しい状況を変わりません。
そのため糖尿病診療ガイドラインでも、薬物療法と並んで「食事療法」が治療の基本として位置づけられています。
なぜ薬だけでは不十分なのでしょうか?
糖尿病は「血糖値が高い病気」と考えられがちですが、
本質的には生活習慣や体質が複雑に関わる慢性疾患であります。
例えば、
・毎日甘い飲み物を飲む習慣がある方、
・夕食の量が多い方、夜遅くに食事をする方では、
薬で血糖値を下げても根本的な原因が残ったままになります。
例えるなら、
床に水があふれている部屋で、モップで水を拭き続けているような状態であります。
薬はあふれた水を処理する役割を果たしますが、水漏れの原因を止めなければ問題は解決しません。
食事療法は、その「水漏れの原因」にアプローチする大切な治療なのです。
また、食生活が改善されることで、
・血糖値の改善
・体重減少
・血圧の改善
・脂質異常症の改善
・脂肪肝の改善
など、多方面に良い影響が期待できます。
実際に、
食事内容の見直しによって薬の量を減らせる患者さんや、
早期の2型糖尿病であれば良好な血糖コントロールを維持できる患者さんも少なくありません。
糖尿病患者さんを診察させていただいている立場からも、
・患者さんの薬が減ったり、薬を中止出来たりすると、主治医として大変嬉しいものです。
・そして、薬を使用せずに、食事の見直しや、運動を取り入れにより、
HbA1cが改善し、患者さんが長生きしていただければ、この上ない喜びであります。
「何を食べてはいけないのですか?」という誤解
栄養指導というと、
「好きなものを全部我慢しなければならない」
というイメージを持つ方もいます。
しかし、現在の糖尿病栄養療法は、単純な禁止や制限が目的ではありません。
ここで重要なのは、「何を食べてはいけないか」ではなく、「どのように食べるか」です。
例えば、
・ご飯の量を適量にする
・野菜を先に食べる
・清涼飲料水を控える
・外食時のメニューを工夫する
・間食の内容を見直す
といった小さな工夫の積み重ねが、血糖コントロールの改善につながります。
実際、
患者さんの中には
「ジュースをお茶に変えただけでHbA1cが改善した」
「夕食の量を調整しただけで体重が減った」という方も少なくありません。
糖尿病治療は特別な食事をすることではなく、毎日の食生活を少しずつ整えていくことなのです。
食生活は、多くの場合、患者さんの慣れ親しんだルーティンで成り立っています。
それは本当に小さな積み重ねです。
・ 食事は、塩分が多く入っていなければ、味を感じない。
・ 食事は、脂っこくないと満腹感を感じない。
・ 仕事に向かう朝は忙しいから、朝食は摂取しないので、1日2食です。
このような、ルーティンも、改善して数か月すれば、改善した内容が新しいルーティンに変わっていきます。
・食事は、少しの塩分でも、味を感じる様になった。
・食事は、次の日の胃もたれを防ぐために、脂っこいものは少し減らすようになった。
・1日2食だと、1食1食がドカ食いになって、血糖スパイクを起こすから、
1日3食にして、1食1食がドカ食いにならないようになった。
人間の体は不思議なもので、
食べ過ぎも、バランスの取れた食事も、どちらも慣れてしまえば、それが普通となっていきます。
なぜ管理栄養士による栄養指導が必要なのか
インターネットやSNSには、糖質制限やダイエットに関する情報があふれています。
しかし、その情報がすべての人に適しているとは限りません。
例えば、
・仕事で外食が多い方
・高齢者の方
・腎臓病を合併している方
・体重を減らしたい方
・やせていて筋肉量を維持したい方
では、対象者が多岐にわたり、必要な栄養管理も大きく異なります。
糖尿病治療では、「正しい知識」だけでなく、「その人が実践できる方法」を見つけることが重要であります。
管理栄養士は患者さんの生活習慣や仕事、家族構成、食事内容を詳しく伺いながら、
一人ひとりに合った改善策を提案します。
無理な制限ではなく、「続けられる方法」を一緒に考えることが栄養指導の大きな役割であります。
栄養指導は未来への投資
糖尿病が怖いのは、症状が少ないまま進行し、網膜症、腎症、神経障害、心筋梗塞、脳卒中などの合併症につながる可能性があるためです。
しかし、血糖コントロールを良好に保つことで、こうした合併症のリスクを大きく減らせることがわかっています。
そして、その血糖コントロールの中心となるのが日々の食事です。
1日3回の食事は、1年で約1,100回になります。
薬は1日1回かもしれませんが、食事は毎日の積み重ねです。
だからこそ、糖尿病治療では薬だけに頼るのではなく、食事を味方につけることが重要なのです。
まとめ
糖尿病治療において薬物療法は非常に重要ですが、それだけでは十分ではありません。
食事療法は治療の土台であり、その実践を支えるのが栄養指導です。
「何を食べてはいけないか」ではなく、「どうすれば無理なく続けられるか」を考えることが、長期的な血糖管理につながります。
当院では医師と管理栄養士が連携し、一人ひとりの生活に合わせた栄養指導を行っています。
糖尿病と上手に付き合いながら健康な毎日を送るために、ぜひ当院でも栄養指導をご活用ください。
今まで、栄養指導を受けたことないけど、栄養指導を1回受けてみたい方、
以前、当院で栄養指導を受けられて、HbA1cが改善して、一度栄養指導を卒業された方も大歓迎です。
是非お気軽にお声がけください。
【参考文献】
1. 日本糖尿病学会 編. 糖尿病診療ガイドライン 2024. 南江堂.
2. 日本糖尿病学会 編. 糖尿病治療ガイド 2024-2025. 文光堂.
3. Evert AB, Dennison M, Gardner CD, et al. Nutrition Therapy for Adults With Diabetes or Prediabetes: A Consensus Report. Diabetes Care. 2019;42(5):731-754.
4. American Diabetes Association. Standards of Care in Diabetes 2025. Diabetes Care.
5. Lean MEJ, Leslie WS, Barnes AC, et al. Primary care-led weight management for remission of type 2 diabetes (DiRECT): an open-label, cluster-randomised trial. Lancet. 2018;391:541-551.
おうちのドクター院長 黒澤秀章
第15回西南部臨床糖尿病研究会に関して
最近、コラムの掲載が滞っておりまして、誠に申し訳ありませんでした。
おうちのドクター院長の黒澤です。
先日、10月18日土曜日に、
第15回西南部臨床糖尿病研究会を開催させていただきました。
こちら研究会は、当院開設時より多くの方々にご協力いただきながら、
毎年1回開催させていただいております。
今年も、以下の名立たる御施設をはじめとする糖尿病診療の経験豊富な医療従事者の方々に
ご参加いただきまして、心より感謝申し上げます。
慶應義塾大学病院 様
防衛医科大学病院 様
河北総合病院 様
下北沢病院 様
東京都立多摩北部医療センター 様
関東中央病院 様
日本大学病院 様
順天堂大学医学部附属順天堂医院 様
日本赤十字社医療センター 様
東京科学大学病院 様
日本大学医学部附属板橋病院 様
森下記念病院 様
海老名総合病院 様
平塚市民病院 様
平塚共済病院 様 他多数
毎年、研究会を開催させていただくと、糖尿病診療における悩みや、
解決方法を様々な御施設の方々とディスカッションさせていただき、身の引き締まる思いを改めて実感致します。
来年も第16回を開催出来るように努力して参りますので、今後ともよろしくお願い致します。
そして、私の担当のコラムは、2025年はこれが最後になります。
今年も1年間大変お世話になりまして、誠にありがとうございました。
来年2026年も何卒よろしくお願い致します。
皆様、よいお年をお迎えください。
おうちのドクター院長 黒澤秀章
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●2025年12月9日「どうでしょう?禁煙外来」(田中先生)
●2025年10月1日[もしもたんぱく尿が出たら、](田中先生)
●2025年6月11日「たかが、ではなく、されど」(田中先生)
●2025年5月29日「年1回の健康診断に関して」(黒澤先生)
●2025年5月7日「ダイエット外来もやっています♪」(田中先生)
●2025年4月2日「あのワクチンも定期接種へ!」(田中先生)
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●2025年2月26日 「女子の大敵 膀胱炎!」(田中先生)
●2025年2月12日 日本総合健診医学会 第53回大会のシンポジウムにて発表させていただきました(黒澤先生)
●2025年1月22日 「胃腸、つかれてませんか?」(田中先生)
●2025年1月9日 「地域医療における当院の役割に関して」(黒澤先生)
●2024年11月6日 「ワクチン接種で冬支度」(田中医師)
●2024年10月29日 甲状腺とは ~その4(甲状腺の主な抗体検査)~(竹尾医師)
●2024年10月23日 糖尿病患者さんのかかりつけ医としての役割に関して(黒澤医師)
●2024年10月2日 「血糖の乱高下で悩んでいるあなたへ)(田中医師)
●2024年9月25日 甲状腺とは ~その3(甲状腺の主な検査)~(竹尾医師)
●2024年9月18日 糖尿病患者さんの採血と食後高血糖に関して(黒澤医師)
●2024年8月27日 「食後のだるさは●●●が原因だった・・・?)(田中医師)
●2024年8月21日 甲状腺とは ~その2(甲状腺の主な病気)~(竹尾医師)
●2024年8月7日 糖尿病患者さんの血糖値に関して ~高血糖と低血糖~(黒澤医師)
